5ちゃんねる ★スマホ版★ ■掲示板に戻る■ 全部 1- 最新50  

■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

( ´_ゝ`)パラドックスが笑うようです

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 22:54:23.56 ID:ZlS6vVvN0

まとめ様
ttp://vipmain.sakura.ne.jp/574-top.html
ttp://nanabatu.web.fc2.com/boon/paradox_scorn.html

今日は3話分、30レスくらいかな。投下します
のんびりいきましょう

2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 22:56:24.60 ID:ZlS6vVvN0

 『この街では決して名前を名乗ってはいけないよ』

 高い塀に囲まれた街の門番は、しつこく俺たちに注意を促してきた。
何でも、この街では数百年前から『人名』を排除する政策をとってきたらしい。
この街では俺は勇者A、クーは魔法使いA、蘭子は犬Aだ。

▼・ェ・▼「ワン!」

 ああ、ごめんな蘭子。お前は勇者Bだったな。
市長は市長と呼ばれ、鍛冶屋は鍛冶屋と呼ばれ、宿屋の主人は主人と呼ばれる。
会話では『うちの夫』とか、『あんた』、『君』、『お前』などの代名詞しか使えない。

 この政策は元々、人を中傷する落書きが多かった為に施策されたものらしい。
名前が無くなれば、誰を傷つけている落書きがわからなくなる。
施策当初はかなり混乱を招いたらしいが、今では名前がついている事があり得ないようだ。

 不便そうな政策に思えたが、住人たちは見た目は生き生きとしているように思えた。
名前が無いというのは心に安らぎを与えてくれるのだと、バーのマスターは言った。
匿名ゆえの自由、同一ゆえの安楽、集団ゆえの安息、これが安らぎの正体だろう。

 名前とはデータ上で人間を判別する為の記号である。
この街の歴史を紐解いても、人間の姿は見えない。

 ここは『名無しの街』。地図には載っておらず、正式名称も無い。
記録や記憶には残らずに、ただ今だけが存在する街は、何処か無機質で、殺風景に見えた。


3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 22:58:47.28 ID:ZlS6vVvN0













#7

*――匿名サンクチュアリ――*




4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:02:16.78 ID:ophl6WUdO
支援

5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:02:32.49 ID:ZlS6vVvN0

 街路樹が立ち並ぶ石畳の通りを、俺たちはのんびりと散歩していた。
道が広く、整備もちゃんとされているので、歩いていると気持ちが良かった。

 木骨と漆喰壁からなる家々は、大体の家が淡いコーヒー色で統一されていて、落ち着いた感じがする。
道の隅に置いてあるゴミ箱に、ゴミが溢れかえっている所以外は、美しい外観をした街だった。

 既に街での用事は全て終わっている。
道具屋でアイテムの調達はしたし、鍛冶屋で剣の手入れもしてもらった。
バーでの情報交換もあらかた済んでいたので、もうこの街に居続ける必要は無い。

 蘭子と一緒に旅をしていた頃には、同じ所に四日以上滞在する事はほとんどなかった。
大体二日目には用事を済ませ、三日目の昼頃に街を発つのがサイクルになっていた。
ところが旅慣れしていないクーを引き回したせいで、彼女は風邪を引いてしまったのだ。
彼女の体調が気になったので、今回は少し長居をしている。

( ´_ゝ`)「ん?」

 クーに服の袖を引っ張られ、歩くのを止めて後ろを振り向いた。
彼女はあさっての方向をじっと見ていた。

川 ゚ -゚) <見て>

 彼女が見ていた先で、街の住人たちが談笑していた。この街では至る所で井戸端会議が行われている。
歩く人より立ち止まって喋っている人の方が多いくらいだ。
最初は住人同士が仲良く暮らす良い街なのかと思っていた。
しかし街の人たちの話を聞いている内に、この街ではそもそも仲良しという概念が無い事を知った。


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:05:46.79 ID:ZlS6vVvN0

( ´_ゝ`)「よく話題が尽きないもんだな」

川 ゚ -゚) <そうですね>

 住人たちはただ“話し好き”なだけで、誰かと馴れ合いがしたい訳では無いのだ。
旅人である俺たちに対しても、彼らは好意的に話しかけてくる。
ただし誰も俺たちの顔を覚えてはくれない。同じ人から、同じ話を何度もされた。

 また住人たちは感情を隠さない者が多く、歯に衣着せぬ物言いが特徴的だった。
『あんた勇者には見えないな』『可愛い子だね。僕と付き合わない?』
『うるさい犬だ。鬱陶しい』『退いて。邪魔』『あっそ。ばいばい』

 嘘つきより素直な人の方が実害は少ないんだが、素直というより乱暴な人が多かった。
働いている人たちだけは礼儀正しかったが、仕事以外はきっと同じだろう。
この街では住人としての自分が無いから、自由気ままなコミュニケーションがされているのだ。

川;゚ -゚)「うぇあ!」

 突然聞こえたクーのうめき声に、手が反射的に短剣に伸びた。
見てみるとクーの着ているローブのフードを、街の若者らしき男が掴んでいた。何だこいつ。

(,,゚Д゚)「なあ、時計持ってないか?」

 どうやら時間を聞きたかったらしい。
懐中時計を取り出し、時刻を伝えると、一言お礼を言って男はフードを離した。

川#゚ -゚) <兄者さん、こいつ殴っても良いですか?>


7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:05:48.74 ID:ophl6WUdO
しえん

8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:08:36.38 ID:ZlS6vVvN0

 おーおー怒ってる怒ってる。
別にこの男がクーに殴られて怪我をしようがどうでも良かったが、常識の範囲で考えて止めさせておく。

(,,゚Д゚)「その格好、あんた魔法使いか?」

 クーの怒りは目に見えて分かるのに、全く気にする素振りも無く男は話し出した。
街の住人は顔を覚えられないと同時に、表情で相手の感情を探る事をしない。いや、おそらく出来ないんだ。

川#゚ -゚)「あぅ、あぉうぅあいあぉ」

(,,゚Д゚)「は?」

川#゚ -゚) <兄者さん>

( ´_ゝ`)「ああ、魔法使いだ」

(,,゚Д゚)「へーそうなんだ。旅人だよな?」

川#゚ -゚) <見て分かれよ>

( ´_ゝ`)「その通り」

(,,゚Д゚)「ふーん。まあどうでもいいけど」

川#゚ -゚)

 感情が伝えられないというのがこうも不便だとは思わなかった。
街の住人はいまいち感情というものを見せないから、住人同士であれば気にする事では無いのだろうが、流石に腹が立つ。


9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:09:04.48 ID:tOqVseW70 ?2BP(0)
こめ

10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:11:29.00 ID:ZlS6vVvN0

(,,゚Д゚)「お、来た」

 一言呟くと、街の青年Aは道の向こうから歩いてくる女に手を振り始めた。
ここで待ち合わせでもしていたのだろう。彼女はこの男の恋人―――いや、恋人Aかな。

(*゚ー゚)「待った?」

(,,゚Д゚)「待った」

(*゚ー゚)「そう。ごめんね」

 やってきた女は、顔に笑顔が張り付いたような奴だった。
整った顔立ちは十分に美人といえるものだったが、生気が感じられない笑顔は俺には馴染まなかった。
街の住人はみんな、精巧に作られた機械人形にしか見えないのだ。

(*゚ー゚)「誰?」

 恋人Aは俺たちを指さして言った。

(,,゚Д゚)「旅人だってさ」

(*゚ー゚)「そうなんだ。あなたたちもうちくる?」

 今のを聞いただろうか。全く初対面の俺たちに、いきなりこれだ。
仲良しが存在しないこの街では、友達という関係が極めて希薄なものになっている。
恋人関係はあるし、夫婦も、家族もいる。だが友達関係が無いので、他人との距離感が他と全く違うのだ。
システム的な繋がりしか認めないというか、グレーゾーンが存在しないというか。

 とにかく、俺には馴染まない街だ。

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:13:17.08 ID:lprzTRIUO
淡々としたふいんきが好きしえん

12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:13:29.03 ID:ZlS6vVvN0


*―――*


 彼女の家に向かっている時に、気になった事を二つ聞いた。
まずどうせ家に行くならどうして待ち合わせをしていたかと、何故俺たちを誘ったかである。

 前者の答えは濁され、本音らしい返事は聞けなかった。
ただクーは何となく分かったらしく、手話でこそっと教えてくれた。
≪まだ恋人一歩手前だから 家に呼ぶのが恥ずかしいんじゃない?≫
だそうだ。

 分かるような分からないような微妙な感情だ。
街で出会い、家に行くという手順を踏むと、恥ずかしいのが紛れるのだろうか。
友達と他人がイコールで結ばれる街でも、友達以上恋人未満は何かと微妙な所らしい。

 後者の俺たちを誘った理由というのは、至極単純明快なものだった。

(*゚ー゚)「何となく」

 話好きもここまでくれば狂人の域である。
赤の他人、もはや街の人間ですら無い俺たちを家に誘えるのだから、何かが麻痺している。
『悪人じゃ無いし』と付け加えた彼女は、相変わらずのかちこちの笑顔でにやついていた。
悪人かどうかが見て分かるようなら犯罪者はこの世を闊歩しないだろう。


13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:15:52.60 ID:ZlS6vVvN0

(*゚ー゚)「ここが私の家」

 彼女の家は立派な屋敷で、鉄格子の重々しい扉の向こうに広い中庭が見えた。
持っていた鍵で扉を開け、中庭に入っていった俺たちは、貧乏人丸出しでキョロキョロと周りを見渡していた。

川 ゚ -゚) <凄い。兄者さん。凄い金持ちだ>

 クーが露骨に反応を示す事が出来るのは、彼女が正直者という訳では無く手話で喋っているからだ。
こういう形で手話が使える事を彼女から学んだ。やってみると中々使えるものである。

( ´_ゝ`) <そうだな。商人の娘か、市議会委員の娘なんだろう。羨ましいこった>

 会話の内容がばれないように、返事も手話で行う。

川 ゚ -゚) <頼んだらお金くれるかな?>

( ´_ゝ`)「それは無理だろう」

 実りの無い会話だとわかった直後、手話を使うのはやめた。
前を歩く街の若者AとBは一瞬だけ俺たちを振り返ったが、興味が無いのかすぐにまた前を向いた。

川 ゚ -゚)「うー」

 会話を止められた事で、彼女はしかめっ面になり一声唸った。
クーは意外と根に持つタイプなので、後々まで今の出来事を覚えている事だろう。
扱いづらいというか、正直な話結構面倒な女だ。
恨み辛みを長々と綴ったノートとか持ってるタイプだ。短く言うと陰険である。


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:17:03.73 ID:5o+ol4dwO
続けたまえ

15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:19:03.18 ID:ZlS6vVvN0

 彼女の事はひとまず置いておいて、屋敷の事を話そう。
家の中に通された俺たちは、応接間らしき部屋まで案内された。
ふかふかのソファーと、ガラスのテーブルが置いてある。
部屋には金持ちの象徴である鎧とシャンデリアもちゃんと用意されていた。

(*゚ー゚)「お茶を出すわね」

 部屋から出て行った彼女を待つ間、俺たちは若者Aと雑談をしていた。
彼の口から飛び出すのは他愛も無い日常の話ばかりだ。
あまりにもつまらなかったので全て省く。

 話を聞きたいと言われたので、俺の方からも旅の事を色々と話した。
勇者である事を言えば余計な突っ込みを入れられる事が予想されたので、その事は伏せてである。
食いつく話にはどん欲に、興味の乗らない話にはそっぽを向いて、彼は俺の話を聞いた。

 俺は話し上手では無いが、彼も聞き上手では無い。
というか話しているといらいらしてくる。俺が会話をしている相手は本当に人間なのか。
礼儀がどうこう以前に相手を気遣う気持ちが微塵も無い。こんな事この街ではしょっちゅうなのだが、やはり慣れない。

(*゚ー゚)「はい、どうぞ」

 彼女がお茶を持ってきたのは十分後だった。
家が広いとお茶を出すのも一苦労なんだな。もしくは急ぐ気が全く無かったか。

(*゚ー゚)「旅のお話、聞かせて欲しいなー」

 つい今し方必死に話していたのだが、彼女が知るよしもない。
俺は無礼者Aにしたのとは別の話を金持ち娘Aに話し始めた。


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:21:40.20 ID:ZlS6vVvN0

川 ゚ -゚)「あぁぅ」

▼・ェ・▼「くぅん」

 魔法使いAと勇者Bは退屈し始めたのか、ソファーの上で一緒になってじゃれ合い始めた。
彼女たちは言葉を喋れないので、話に合いの手を挟む事が出来ない。
やる事がなければ退屈してしまうのは仕方の無い事なのだろうが、少しは俺の苦労も考えて欲しかったりする。

(*゚ー゚)「ねえ」

 ずっと無言で話に聞き入っていた金持ち娘Aは、唐突に会話に割り込んできた。
手を取り合って仲良くじゃれ合う魔法使いAを見て、俺に質問を投げかける。

(*゚ー゚)「そこの人は、貴方の奥さんなの?」

川 ゚ -゚)

 魔法使いAの動きがぴたりと止まった。何故か俺の方を恨めしそうに睨んでくる。
静かな殺気を感じながら、彼女が仲間になった経緯を踏まえて違う事を説明する。

(*゚ー゚)「ただの仲間なんだ。でもセックスはしたんでしょう?」

川 ゚ -゚)

( ;´_ゝ`)

 帰りたくなってきた。視線で殺しかねない勢いで睨みつけてくる魔法使いAをとても直視できない。
うちの魔法使いは品の無いジョークが大嫌いなのだ。ジョークでなければ、尚嫌いという性格の持ち主である。


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:23:35.17 ID:ZlS6vVvN0

 無駄かもしれないという事は考えずに、言葉を選んでちゃんと説明した。
俺と彼女の間に体の関係は無いし、不純な気持ちも無い。
旅の仲間として極めて健全でフラグのフの字も無い付き合いをしていると。

 空気が読めていない金持ち娘Aは徐々に無表情になってきた。
作り笑いも不気味だったが、無表情もそれなりに嫌悪感を抱く顔立ちをしていた。

(*゚−゚)「なんでセックスしないの? 一緒に旅をするなら体の繋がりくらいあるでしょう。
    もしかして仲が悪いの? それとも体の相性の関係?」

( ;´_ゝ`)「えっと、つまり」

(,,゚Д゚)「嫌いなんだろ?」

 相手に考える余地を与えない言葉責めは無性に腹が立つ。
顔がむかつく男Aは、テーブルに足を乗せた体勢で気だるく呟いた。

(,,゚Д゚)「嫌いだったら別れれば良いよ」

( ´_ゝ`)「違う。むしろ好きだ」

(*゚ー゚)「じゃあやっぱりセックスしたいんだ?」

 クソッタレ娘Aは無表情から元の笑い顔に戻っていた。
俺を論破出来たとでも思っているのか。

( ;´_ゝ`)「だからそうじゃなくて」


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:24:47.46 ID:ZlS6vVvN0

 クソ野郎Aは言う。

(,,゚Д゚)「俺はこいつを抱いてるよ。たぶん将来結婚すると思うし」

 クソ女Aは言う。

(*゚ー゚)「私の家柄に相応しいのは彼の家だけだからね」

 クソ野郎Aは続ける。

(,,゚Д゚)「好きならセックスするのは当たり前だろ。女に幻想を抱くなよ」

 クソ女Aは続ける。

(*゚ー゚)「もっと割り切った関係でいいじゃん。私と彼も、まだ付き合っていないのよ」

 クソ野郎Aは笑う。

(,,゚Д゚)「やりたいんだろ? 我慢するなよ」

 クソ女Aは笑う。

(*゚ー゚)「人間だって動物よ。欲望を抱くのは当たり前なの」

 クソ勇者Aは言う。

(  _ゝ )「おまえらは何もわかってない。俺たちの事に、口を出すな」


19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:26:48.23 ID:ZlS6vVvN0

(*゚−゚)

(,,゚Д゚)

(  _ゝ )

(*゚ー゚)「―――そうそう、昨日の事なんだけどさ」

(,,゚Д゚)「どうした?」

 今分かった。こいつらは人間じゃない。『自分』が無いゆえに『相手』も存在していない。
考える事をやめてただ感情のまま生きているんだ。
最低限のルールを守り、自分が住めるだけの縄張りを作って、ただ呼吸しているだけの生き物。
人間としての尊厳なんて欠片も無い、ただの『名無しA』なんだ。

(  _ゝ )「俺の名前は兄者だ」

 のほほんと会話を楽しんでいた二人の動きが止まった。
同時に、空気がぴんと張り詰めるのを感じた。

( ´_ゝ`)「彼女は魔法使いのクー。そこの犬はペット兼勇者の蘭子。
       俺は精霊に選ばれた勇者で、魔王を倒す為に旅をしている」

 普段の彼らは感情をほとんど顔に出さない。
それでもこの時ばかりは、心の底からの嫌悪感と恐怖を、顔中に滲ませていた。


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:29:38.98 ID:ZlS6vVvN0

川 ゚ -゚)

▼・ェ・▼

( ´_ゝ`)「俺たちは傷つく事が出来る」

(*;゚−゚)「え、え、何? 何言ってるの?」

( ;゚Д゚)「おいおいおいおい、勘弁してくれよ。待てって」

( ´_ゝ`)「だから傷つく痛みを知っている。おまえらとは違うんだ」

 急にしおらしくなった二人は、体を寄せ合ってこそこそとささやき合い始めた。
声が小さくて聞こえないが、何を言っているのか大体検討はつく。
『名前』を持っている俺たちの陰口だろう。

( ´_ゝ`)「わざわざ家にお招き頂いて、どうもありがとうございました。さようなら」

 さっきまで馴れ馴れしいくらい態度の大きかった二人も、今じゃ見る影も無い。
ソファーから立ち上がった俺に対して、異形の怪物でも見ているような目をして怯えている。

 続いてすぐにクーも立ち上がり、座ったままの二人に小さく礼をした。
彼女もいい加減むかっ腹にきていたらしく、蘭子を抱いたまま先頭を切って部屋を出て行った。
二人に一瞥を送ってから、彼女の後を追って歩き出す。背中で聞こえるささやき声は全て無視した。
どうせ彼らのお喋り同様、つまらない内容に決まっているからだ。


*―――*


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:32:16.18 ID:jp3mAruPO
非常に期待してる作品が来たか

支援

22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:34:23.86 ID:ZlS6vVvN0

 話し好きたちが集う街らしく、俺たちの噂は風よりも早く駆け抜けた。
この街で初めて名前を名乗った次の日には、通りで会う街の住人ほとんどが、俺たちを見て振り返るようになった。
中には指を指して笑う者もいた。何が面白いのか甚だ疑問だが聞く気も起きない。
第一顔を覚えられなかったはずなのに、名前を出した途端一瞬で覚えられたのは何故だ。
まあいい、考えれば考える程ストレスが溜まって仕方無い。

 とにもかくにも、こんな状態のまま居られる事は出来ないので、俺とクーは一刻も早く街を出る事にした。
急いで旅の支度を調え、追い立てられるようにすぐさま街を発った。

川 ゚ -゚) <変な街でしたね>

 『名前』、すなわち『自分』がいない街、確かに相当変だ。
システムだけが存在し、人間らしい優しさを失った街だった。
あんな場所に長く居続けたらこっちまで気がおかしくなりそうだ。

川 ゚ -゚) <ところで、どういう意味で言ったんですか?>

( ´_ゝ`)「何が?」

川 ゚ -゚) <『むしろ好きです』って>

 手話だから微妙なニュアンスがわからなかったが、昨日俺が言った台詞の事みたいだ。
クーの事を嫌いなんだろうと言われたとき、咄嗟に返した答えがこれだった。
突発的に出た台詞を今になって蒸し返すのがやっぱり陰険なクーらしい。


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:35:13.32 ID:ZlS6vVvN0

( ´_ゝ`)「記憶にございません」

川#゚ -゚)

 ジョークを利かせたつもりだったのに、思いっきり頬をつねられた。
肉がちぎれるかと思うくらい痛く、少し涙が出てしまった。
まあ目の前で陰口叩かれるよりよっぽどマシだけどさ。
マシだけど、マシだけどさ。

(#);´_ゝ`)「もう少しおしとやかになれないのか」

川 ゚ -゚)

 クーはそっぽを向いて無視を決め込んでいる。
こうやって喧嘩が出来るのが一種の幸せだと気がつかせてくれただけでも、あの街に行ったのは価値があったのかもね。


24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:35:54.52 ID:ZlS6vVvN0


#匿名サンクチュアリ

終わり



25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:37:40.07 ID:ZlS6vVvN0

 旅をしていく上で辛い事は山ほどある。
例えば食料の問題、また自身の体力や気力、モンスター、人によっては生理現象も大敵だ。
まさに自分自身との戦いといっても過言では無いだろう。

 風呂だってその内の一つである。
街から街への移動の間、ずっと風呂に入れないのは当たり前。
あまりにも衛生が悪いと病気にかかる事があるので、川や泉で水浴びをしなければならない。

 しかしある時偶然温泉を発見してしまったらどうなるだろうか。
山の奥地にわき出た天然のオアシス、天からのお恵み、自分自身へのご褒美(わらい)。
使わない手など無いだろう。今の俺たちのように。

川*゚ -゚)

( *´_ゝ`)

▼*・ェ・▼

 野宿五日目の夜、切り立った崖の下で、湯気があふれ出る温泉を見つけた。
待ちに待ちまくった温泉イベント到来である。よい子のみんなはこの話は飛ばして欲しい。
読んでいいのは大人だけだゾ。


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:39:07.39 ID:ZlS6vVvN0













#8

*――SHIROTA――*




27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:40:54.53 ID:M0Whqr3P0
いいねー

28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:41:02.51 ID:ophl6WUdO
しえーん

29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:41:08.13 ID:20vT202Q0
ちょっとないパターン…。
キノの旅的か?


面白い。

30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:42:14.60 ID:ZlS6vVvN0

 ≪絶対覗かないで下さいね≫

 クーから念を押すように何度も手話で注意された事だ。
年頃の娘なのだから裸を見られたくないのは当たり前だ。

 なのでクーと蘭子が温泉に入っている間、少し離れた茂みの中に移動していた。
俺は紳士なので女性の入浴を覗くような真似はしないのだ。
しかし一緒に旅をするようになってから二ヶ月、この間に彼女とのフラグが立つ事は無かった。
これって勇者としてどうなの。俺だって恋愛の一つや二つしてみたいよ。してみたいよ!

 別に勇者としての立場を利用していやらしい事がしたい訳では決して無い。
ただ人として、男として生まれたからには淡い期待感とリビドーを抱くのは普通だろう。
彼女の裸を偶然目撃してしまう事から始まるロマンティックラブストーリーがあってもいいじゃない。

 こんな事を考えていた時、ふと彼女に対しての気持ちがよくわかっていない事に気がついた。
今まで恋愛などというものに縁がなかったので、彼女に恋愛感情を持っているかどうかわからないんだ。
客観的に見ても主観的に見てもクーは美人で、魅力のある女性だ。
頭の回転が早い割に、少々世間知らずな所や、短気な部分があるのすら愛らしく感じる。
だからといって自分が彼女に恋をしているのかというのは断定出来ないのではないか。

 人は何を以て恋をしていると判断するのだろう。
相手に性的な感情を抱いた時点で恋をしているというのなら話は簡単だ。
街で見かけるギャルやカジノにいるバニーガールに幾たびもの恋をした事になる。
恋というものがそこまで単純なものなら良いのだが、実際の所よくわからないものである。


31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:44:07.93 ID:ZlS6vVvN0

 きっかけさえあれば俺だって、と思いつつ何も起こらないままこの歳になってしまった。
このままではクーよりも先に魔法が使えてしまうではないか。
チャンスを見いだした瞬間動かなければ、いつまで経っても恋なんて出来ない。
行動を起こすのは今だ、今しかないんだ。

( ´_ゝ`)(いや、待て待て待て)

 今更だが風呂を覗くという行為はフラグなのか。
クーは下品な事が嫌いだから、俺が覗きをすれば関係が悪化するだけではないのか。
彼女はしつこい程覗くなと注意してきたじゃないか。

 違う、見方を変えればこう解釈する事が出来る。
『ぜ、絶対覗いちゃ駄目だからねっ』というツンデレな乙女心から来るブラフの可能性だ。

 『キャー! 何覗いてんのよ!』『ごめん! そんなつもりじゃ』
 『で、でも、兄者さんだったら……』『え、今なんて言ったの?』
 『別に、何でもないわよっ』『えー』

 みたいな?

( ;´_ゝ`)(馬鹿か俺は)

 漫画ですら最近こういうの見ないぞ。現実でこんな女いないだろう。
目を覚ませ兄者、お前は勇者から犯罪者に転職するつもりか。


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:46:22.67 ID:daoHxo53O
大好き、
支援

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:46:40.15 ID:ZlS6vVvN0

 だがこのまま何も進展しないまま魔王を倒したらどうなるだろうか。
クーはスクイットヴィレッジに帰るだろうし、俺も弟者を連れて元の街に戻る。
たまに手紙のやりとりをするだけの関係になるが、彼女が結婚してからはそれも無くなり―――。

 無性に悲しくなってきたぞ。
どうして世界を救う勇者が寂しい独身生活を考えて孤独な思いをしなければならないんだ。
おそらく俺は試されているんだ。これも精霊が課した試練なんだ。
選択肢を誤れば彼女自身からの鉄槌が下されるが、良い方向に導けばフラグが立つ。
バラ色の人生が待っている。

 失敗も成功の母というじゃないか。
一番やってはいけない事は何もしない事だと昔の偉い人は言っていた。
例え失敗したとしても今の状態から何かが変われば万々歳だ。
そう考えるとノーリスクハイリターンの賭けである。

( ´_ゝ`)「はあ」

 ここまで考えてもやはり空しい。覗いた後の展開があまりにも簡単に予想出来るからだ。
どうせ怒り狂ったクーの鉄拳により俺の顔が変形するだけだ。こんな感じで((#)゚_ゝ`)。

 俺が何をやっても未来は変わらない。なるようになるだけ。
神様なんているかどうかもわからない存在に弄ばれて、旅をしている俺なんだ。
後戻りも寄り道も出来ず、背中を押されて行進しているに過ぎない俺の人生、下らないにも程がある。
『運命』は冷血で、淡泊で、面白みが無く、煩わしい。

 勇者が最も倒さないといけない相手は、自らに与えられた『運命』なんじゃないのか。


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:48:46.23 ID:ZlS6vVvN0


*―――*


 生まれたままの姿になった俺は、少々ぬるめの白濁湯に肩口まで一気に体を沈めた。
妙なあえぎ声と一緒に体に溜まった疲労をはき出す。
まだまだ若いと思っている俺も、こういう時は素直におっさんになるのだ。
素っ裸なのに見栄を張る必要は無いだろう。
心に着せた社会という名の鎧を脱げば、人は全裸の天使になれるんだ。何だ全裸の天使って。

 天然の温泉にはオプションで夜空もついている。至れり尽くせり、サービス満点だ。
あとは美女がお酌してくれれば文句なしなのだが、流石にそれは贅沢過ぎるというものだ。

 温泉なんて何年ぶりだろう。
家族で旅行に行った先で入る事はあるが、一年に一度あるか無いかくらいの頻度だ。
魔王が復活してからは用心棒無しで旅行に出る事が出来なくなったので、久しく温泉の快感を忘れていた。

 人に生まれて良かったと思う瞬間の一つだ。
風呂という文化のおかげで、豊かな心が育まれ、余裕のある人生が送れるのではないだろうか。

((#)゚_ゝ`)「あぁぁ〜」

 顔を洗うと、腫れあがった頬がぴりっと痛んだ。
『運命』は俺が思っていたよりもずっと残酷でプレーンなものだった。
抗おうとする者に容赦なく裁きを下すのだ。くわばらくわばら。

 え、何で結局覗いたかって? そこに風呂と美女がいるからさ。簡単な話だろ。
魔王がいるから勇者がいる。風呂があるから覗きがいる。何が違うっていうんだ兄弟。


35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:49:52.03 ID:ZlS6vVvN0


 真実はいつだって一番馬鹿らしいものが答えなんだ。



36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:49:54.91 ID:grhdpEoI0
きてた支援

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:50:35.45 ID:ZlS6vVvN0


#SHIROTA

終わり



38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:51:55.40 ID:jp3mAruPO
いいね〜 支援

39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:53:06.53 ID:ZlS6vVvN0

 奴と遭遇した時、初めて死よりも深い恐怖を体験した。
負の感情の塊、狂気の実体化、どんな言葉を使っても形容出来ない、闇そのもの。
その時の俺にはまだ、奴の一端すら理解出来なかった。

 世界は複雑に絡み合った悪意の元で成り立っていた。
魔王を倒せば世界が平和になると思っていたのは、大きな勘違いだったのだ。
勧善懲悪の物語なんて、戦いの中に存在しないんだ。
この話は、まだ俺がこの世界の事を何も知らなかった時の出来事である。


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:53:39.93 ID:ZlS6vVvN0













#9

*――クロウ――*




41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:55:44.30 ID:ZlS6vVvN0

 農業が盛んな村、シェルジアは大きな河と森に挟まれた緑豊かな場所だった。
畑や田んぼが大部分を占め、家から家までの距離が長い。
公民館らしき建物の近くには、小さな商店や旅館もあり、一応旅人への配慮も伺える。
それでも普段から旅人が寄る村では無さそうで、農作業をしていた村人たちからの視線が少し気になった。

 旅館の一階は食堂になっており(むしろ泊まることが出来る食堂という感じの旅館だ)、夕食はそこで食べた。
畑で取れた作物をふんだんに使った料理は、ヘルシーで美味しく、何より安かったので気に入った。
ご飯のおかわりが自由との事なので、俺は三杯、クーは四杯食べた。
お上品にちょこっとだけ食べる女より、俺はクーの方が好きだ。

 『あんたなんでこの村にきたんだ?』

 食堂にいた料理人兼、旅館の主兼、おばちゃんは田舎特有の馴れ馴れしさで俺たちに聞いてきた。
俺の旅は最終目標こそあれど、明確なルートは何一つ無い。
だからいろんな場所で寄り道をして、何か情報でも無いかと探っている最中だった。
隠す必要も無いだろうと思い、俺が勇者である事、魔王を倒す為に旅をしている事を伝えた。

 おばちゃんははっと息を呑み、それ以降俺たちと喋ろうとはしなかった。
急に態度が変わった事に何か秘密があるような気がしたが、追求しようなどとは思わなかった。
勇者っていうのは余計な事に首を突っ込んで事態をややこしくするもんだからな。
俺は面倒な事が嫌いなんだ。後世に残る俺の伝記はさぞかしつまらないものになるだろうね。


*―――*


 俺たちが泊まっている旅館に村の村長が訪ねてきたのは、夜の十時を回った頃だった。


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:56:39.04 ID:grhdpEoI0
支援

43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:57:55.07 ID:ZlS6vVvN0

 杖が無いと歩けないよぼよぼの体なのに、わざわざ男衆を付き従えてやってきた。
俺と蘭子とクーは同じ部屋に泊まっているが、彼女たちは既に眠りについている。
起こしてはいけないと思い、一階の食堂まで下りてそこで話をする事にした。

 食堂のテーブルに向かい合って座ると、村長の深いしわが刻まれた顔がぐにゃりと歪んだ。
笑いかけてきたんだろうが、不気味すぎて愛想笑いを返す事を忘れた。

 『勇者様、なんじゃな?』

 しわがれた声で村長は言った。

( ´_ゝ`)「はい、そうですが」

 こういう時おどおどしていると怪しまれるので、堂々と胸を張って言った。
村長は二、三度咳をしてから、嬉しそうに数回頷いた。

 会話の内容は実に他愛も無い話だった。
『よく来てくれなすった』とか『何も無い村だがゆっくりしていってくだされ』とか。
何処かで聞いたような好々爺の台詞を一方的に浴びせられただけだった。
ただ会話の締めくくりであった『宿泊代を払う必要は無い』という言葉は素直に嬉しかった。

 十数分で会談は終わり、男衆に支えられながら村長は帰って行った。
彼らの足音が聞こえなくなってから、読みかけの小説を読むため部屋へ戻った。
寝室のドアを音を立てないようにしてそっと開ける。
暗い部屋の中、布団の上で正座したクーがじっとこちらを見ていた。


44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/01(水) 23:59:24.72 ID:ZlS6vVvN0

 <置いていかれたかと思いました>

 いつもは踊っているように見える手話が、その時は力無く宙を泳いでいた。
彼女は一人を好み、孤独を恐れる。
情緒不安定で、時々理由もなく不安になったり、怒ったり、悩んだり、喜んだりする。
今夜はちょっと酷い方だ。

( ´_ゝ`)「ごめん。ちょっと客が来てたから」

 ドアを閉めると、窓から差し込む月明かりだけが光源となり、部屋はさらに暗くなった。
本当は小説の続きが気になっていたが、今日はもう寝る事にした。
クーの隣の布団に足を入れ、上半身だけをクーに向ける。
握り拳を頭に当ててから、人差し指を上に伸ばした両手を向かい合わせにして、人差し指を曲げる。

( ´_ゝ`) <おやすみ>

 彼女は耳自体が聞こえない訳じゃないから、俺が手話で話す必要は無い。
でもこうやって手話を使うと、彼女のぐらぐらに傾いた心がちょっとだけ立ち直るのを知っている。
彼女がちゃんと手話で返事をしたのを確認してから、布団に潜り込んだ。

 目を瞑った直後、隣の布団から伸びた手が、俺の腕をちょこちょことつついた。
体の位置を変え、手を取って握ると、向こうからもぎゅっと握り返してきた。
クーと手を繋いだまま、その日は眠りについた。


*―――*



45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:00:33.59 ID:Ox7UMKcZ0
クー可愛い支援

46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:03:02.77 ID:soTQRlyt0

 村人たちの態度が急変したのは、次の日からだった。
道ばたで俺たちと出会えば、まるで国王に謁見しているかのようにへりくだって挨拶をする。
商店は無料で商品を提供し、住人たちから家に呼ばれてごちそうになる事もあった。
勇者効果がここまで出た事は無かったので、俺もクーも(たぶん蘭子も)上機嫌だった。

 ただしひねくれ者の俺には、優しい態度の裏に何かがあるような気がしてならなかった。
旅の中で、様々な人と出会っているので、並の人間以上の観察力はついている自信がある。
しかしクーにその事を話しても、≪気にしすぎ≫とたしなめられるだけだった。

川 ゚ -゚) <もう少し人を信用する事を覚えたらどうです?>

 かわいげの無いうちの魔法使いは、もう少し人を疑う事を覚えたらいいと思うんだが。
まあ実際の所、特に変わった事も起こらず時間だけが過ぎていった。
杞憂だろうと考え直し、どうせ歓迎されているならとシェルジアにはやや長く滞在していた。
ところが村を発つと予定していた滞在五日目の昼に、とうとう事件は起こった。


*―――*


 『勇者様。お話したい事がありますのじゃ。お時間宜しいですかな?』

 旅支度を調え、旅館から出た直後に、村長と村の男衆に囲まれた。
正直な話、驚きよりもやっぱりかという気持ちが大きかった。

( ´_ゝ`)「いいですよ。何ですか?」


47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:04:45.52 ID:soTQRlyt0

 わざわざ体格の良い男衆を呼んで囲んでおいて、何が宜しいですかなだ。
いちいち腹を立てるのも馬鹿らしいので、涼しい顔で先を促せた。
案の定、村長は話し出すのを渋っている。クーの手前、話しにくいのだろう。

 『ここじゃちょっと……。勇者様だけ、わしの家に来てくれませんか?』

 面倒な事は嫌いだし、彼女を置いてけぼりにするのは、もっと嫌いだ。

( ´_ゝ`)「ここで話せない事なら、聞く気はありません」

 俺の態度が気にくわなかったのか、男衆の視線がより強く、鋭くなった。
村長は一瞬だけ男衆を睨んでから、また元の好々爺の顔に戻った。

 『わかりました。お話ししましょう』

 村長の話はあの日食堂で交わした会話より、ずっと短いものだった。
要約すると、この村は山賊たちに襲われている。彼らを退治して欲しい、というものだった。
これで今までの親切が全て説明出来た。見返りを期待した優しさほどいらつくものはないな。

( ´_ゝ`)「嫌です。というか、無理です」

 断った瞬間空気が変わった。
今こいつらは間違いなく、俺を敵と見なした。

( ´_ゝ`)「俺にそんな力はありません」

 予定が違うじゃないかと言わんばかりにざわめきが起こった。
ささやき合っていた声は、やがて俺たちを非難する罵倒へと変わった。


48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:05:49.26 ID:soTQRlyt0

 『勇者というのは名ばかりかい』『情けねえ奴だ』『何の為に旅をしてるんだ』
 『飯を食わせてやった恩を忘れてやがる』『とんでもねえ野郎だ。信じられねえ』
 『まあ犬を仲間に連れてる奴だからな』『犬畜生と同じって訳かい』
 『魔法使いだっているじゃないか』『あいつ、魔法が使えないらしいぜ』
 『じゃあ魔法使いじゃないだろ』『魔法が使えない癖に魔法使いを名乗るな』

( ´_ゝ`)「おい」

 俺は全てを聞き流すほど広い心は持っていない。
拳を握りしめ、殴りかかりたくなる衝動を抑えるので精一杯だった。

 『何ですかの?』

( ´_ゝ`)「俺たちは世界を救うんだ。邪魔をしないで欲しい」

 一瞬の沈黙の後、嘲笑の波が起こった。

 『何が世界を救うだ。山賊にびびってるくらいじゃ、魔王を倒せるはずが無い』
 『寝言は寝て言え』『こりゃあいつまで経っても平和はこねえな』
 『流石はエセ勇者様。人を笑わす術を心得てなさる』

(  _ゝ )

 もう我慢の限界だった。俺だっていくつもの死線をくぐり抜けた男だ。
この場にいる奴ら全員と戦り合っても勝てる自信がある。
ただ俺以上に我慢の出来ない女二人が、遂に癇癪を起こした。


49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:07:34.51 ID:soTQRlyt0

川#゚ -゚)「あああああ!」

▼・ェ・▼「ワン! ワン!」

 声が割れる程の絶叫を上げて、クーが村長につかみかかろうとした。
しかし側にいた男が阻止し、クーの胸ぐらを掴んで怒声を張り上げる。
すると男の足に蘭子が噛みついた。男はまるで少女のような悲鳴を上げ、胸ぐらを掴んでいた手を外した。

川#゚ -゚)「あぁ! あぁあうぁあ!」

 『このアマ!』

 村長は男たちの後ろに隠れ、クーは三人の男に囲まれてしまう。
蘭子は首根っこを捕まえられ、宙ぶらりんの状態になっていた。

 咄嗟のことで動けなかった俺も、仲間の危機とわかってからはすぐに足が動いた。
クーの元へ駆け寄ろうとすると、二人の男が両手を広げて立ちはだかった。
一度小さく左に飛び、フェイントをかけてから男たちの間をするりと抜けた。

 三人の男たちが、じたばたと暴れるクーを押さえつけようとしている。
男たちの内、こちらに背中を向けていた一人を足を引っかけて転ばせた。
もう一人は腕を捻って地面にたたき付けるように押し倒す。

 あと一人という時に、周りから怒りに我を忘れた男衆が飛びかかってきた。
両側から挟むように、同時に突進してきた二人には、ぶつかる直前で身を翻し頭をぶつけ合って貰った。

 今度は三人が、正面から一人ずつやってきた。
短剣を使えば事は簡単だが、人殺しまでする必要は無いので、素手のまま小さく構えを取り迎え撃つ体勢を取った。


50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:08:05.18 ID:Ox7UMKcZ0
しえしえ

51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:09:46.94 ID:soTQRlyt0

 三人の内先頭にいた者は、多少の格闘の心得があるのか、服の襟元を掴んで投げ飛ばそうとしてきた。
足が浮く前に半身を相手の正面に回り込ませ、腕を取ったまま逆に投げ飛ばした。

 顔を上げると、視界の隅で何かが動いたのが見え反射的に体を仰け反らせた。
すぐ目の前を握り込まれた拳が通過する。
空振りして不安定によろめく体を、抱きかかえるようにしてがっちり掴み、腹に膝の一撃をたたき込んだ。
小さなうめき声を上げ、男は地面に沈んでいった。

 『俺が相手をする!』

 男衆の中で、一際体の大きい大男が拳を振り上げて殴りかかってきた。こいつはタフそうだ。
まずノーモーションで顔面に掌底をたたき込み、ひるんだ隙に腹を一発殴った。
ガードが下がったので顔面にもう一発、続けて胸部に二発、腹を五発殴る。
もう一発、横から拳を振り抜くようにして顔を殴ろうとしたら、しゃがんで躱された。
反撃が来るかと思い身構えたが、大男は膝をついて座ると、顔から突っ込むように地面に倒れ伏した。

 『ま、参った。俺たちの負けだ』

 男衆の中にはまだ動ける者が何人かいたが、あっさりと負けを認めた。
クーを掴んでいた男は手を離し、両手を上げて降参の構えを取る。
いつの間にか解放されていた蘭子は、俺の足下でだらしなく舌を垂らしていた。

( ´_ゝ`)「クー。怪我は?」

川 ゚ -゚) <大丈夫>

( ´_ゝ`)「蘭子は?」

▼・ェ・▼「ワン!」

52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:11:31.02 ID:FoRP44AfO
これ好き
支援

53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:11:31.24 ID:soTQRlyt0

 流石は勇者パーティだ。
群れないと戦えない情けない奴らとは、心の強さが違う。

 『わしらが悪かった』

 遠巻きで見ていた村長は、憎たらしい好々爺ではなく無表情の顔で言った。

 『行っていいぞ』

 村長の一声で、男衆はさっと身を引き、道の両側に退いた。
クーと蘭子は意気揚々と男衆の間を歩いていったが、まだやり残した事がある俺は、その場から動かなかった。

( ´_ゝ`)「盗賊団の名前、隠してないで教えてくれ」

 俺の事をエセ勇者と知っていて尚、盗賊団に差し向けようとする。
奇妙な矛盾が、俺の頭に引っかかったのだ。

 『ディアクロウ。頭はジョルジュという者じゃ』

 村長の口から出たのは、行く先々で耳にする、この国で最も名を上げた盗賊団の名前だった。
矛盾の正体は暴かれ、体の力が抜けていった。
盗賊団を退治してくれなんて、嘘だったんだ。本当は誰が行っても良かったんだ。

 ディアクロウの頭、ジョルジュは元々国家直属の新鋭騎士団の一人だった。
ある時汚職事件によって騎士団を首になり、国家に裏切られたと勘違いした彼は、ならず者たちを集め盗賊団を作り上げた。

 戦鬼ディアクロウ。戦いを何よりも好み、国でさえおいそれと手出しが出来ない最強の盗賊団だ。
滞在先の村や町では、住人たちにある条件を課し、条件が満たされない限りそこに居着くというルールがあった。


54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:12:56.63 ID:soTQRlyt0

 条件とはすなわち、戦闘狂ジョルジュとの一対一の決闘。
勝ち負けは問わないので、誰か一人を戦いの場へ差し出せというものだ。
つまり俺が勝とうが負けようが、村にとってはどちらでも良かったという事になる。
俺はこの村の生け贄にされる所だったんだ。

川 ゚ -゚)「あぁ!」

▼・ェ・▼「ワン!」

 遠くから早く来いと急かす彼女たちを尻目に、俺は村長に言った。

( ´_ゝ`)「最初からそう言えば良かったんだ。行くよ。奴らは何処にいる?」

 村長の顔が、初めて作り笑い以外の表情、驚愕の顔になった。
何も知らないクーと蘭子は、まだ叫び続けていた。


*―――*


 星の明かりだけを頼りに、なるべく足音を立てないようにして森の中を進んでいた。
自分が馬鹿な事をしているという自覚はある。
クーが涙目になりながら必死に引き留めてきたのを無視した罪悪感も、ちゃんとある。

 勇者としてのプライド以上に、仲間を馬鹿にされたのが悔しかった。
所詮自分はエセ勇者だと思って納得出来るのは、自分だけの事であってクーと蘭子は違う。


55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:13:11.36 ID:4GwZID/MO
支援

56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:13:58.08 ID:soTQRlyt0

 長い間俺と蘭子が歩んできた道を否定された。
クーの苦しみも知らず魔法を使えない彼女を否定された。
全ては俺の力不足であり、力無き正義は罪であるという事だ。

 例え決闘に勝てずに命を落としても、村を救うことが出来る。
勇者としての定めが誰かを救う事であるなら、命を賭けて証明してみせる。
ここで死んでも、それまでの男だったという訳だ。

 精霊の勘違いから始まった旅なら、もう終わりにしよう。
何も守れない勇者なら必要無い。
身勝手な自己満足で、クーと蘭子、俺の家族を悲しませる結果になっても、仕方が無い事なんだ。
『運命』が選択した事に、誰も抗えないのだから。

 弟者。
 母者。
 父者。
 姉者。
 妹者。
 末者。
 蘭子。

 クー。

 俺を許してくれなんて思わない。でも、正直もう疲れた。
先の見えない旅の中で、いつも疑問に感じていた。
自分が何の為に戦っているのかを。


57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:14:49.32 ID:soTQRlyt0

 選ばれし勇者は、作られた運命の中でしか生きられない。
無限にあるはずの選択肢は消滅し、可能性は全て否定される。
目隠しで綱渡りさせられるような戦いは、もう嫌なんだ。

 ここを死に場所にしよう。
連れ回すだけ連れ回し、結局置いてけぼりにしてしまったクーの事。
今頃魔王の元でめそめそと泣き伏せているだろう弟者の事。

 心残りはたくさんある。
いつか本当の勇者が魔王を倒し、彼らに幸せが訪れるのをあの世で祈ろう。
エセ勇者に出来るのは、それだけなん―――。

( ; _ゝ )「!?」







 今のは、何だ?








58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:15:37.29 ID:soTQRlyt0

 寒気がする。全身に鳥肌が立った。
怖い。殺気では無い。闇を感じる。
体が痺れる程の恐怖。

 悲鳴が聞こえた、気がした。

 足が動かない。この先に何があるんだ。
ジョルジュたちがいるんじゃないのか?
他に誰か、いるのか?

 この気配は本当に人間なのか。
モンスター、でもない。もっと別の何かだ。

 とてつもなく強大で、計り知れない力を感じた。
まるで引き寄せられるように足が動く。
自分の意志では無いみたいだ。

 怖い。どうしようもなく怖い。
星の光が届かなくなってきた。
見えていた道が見えなくなる。
暗闇だ。自分の姿すら見えない暗闇。
一体何が起こっているんだ。

 引き返せ。今なら間に合う。
駄目だ、足が勝手に動く。
嫌だ、見たく無い。

 『ああああああああ!』


59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:17:08.99 ID:Ox7UMKcZ0
末者までいるのか…兄者つええ支援

60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:18:48.87 ID:soTQRlyt0

 吐き気を催すような絶叫が聞こえた。
人間の断末魔だ。
すぐそこで聞こえた。

嫌だ、見たくない。
知りたくない。帰りたい。

 足よ、止まれ。止まってくれ。
戻るんだ。村に戻れば、クーと蘭子がいる。
もう一度旅がしたい。
彼女たちに会いたい。

 助けて、誰か。
お母さん。お父さん。
助けて。

 視界が開く。
星の光が蘇った。
木々の無い地面が見えた。
まだ燃えさかっているたき火も見えた。
地面に転がる、無数の死体も見えた。

( ;´_ゝ`)「―――」

 死体はすべてちりぢりに引き裂かれていた。どう考えても人間業では無かった。
かといっていくらモンスターでも、ここまで残虐な殺し方はしない。
もっと凶悪な何かが、ここで暴れたのだ。


61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:20:39.82 ID:soTQRlyt0

 たき火の向こう側で、甲冑に身を包んだ男が一人、仁王立ちで立っていた。
剣を片手に、体を血まみれにしながら荒く呼吸をしている。彼の足下には血だまりが出来ていた。
  _
(;;;゚∀ )「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 顔の片方がえぐれ、原型が無くなっていた。
意識を保っているのがやっとのようで、もはや戦意など見えない。
何となく、本当に何の理由も無いが、彼がジョルジュなのだとわかった。
  _
(;;;゚∀ )「認識、が、甘かった」

 よろよろと俺が近寄ると、彼はぽつりぽつりと語り出した。
  _
(;;;゚∀ )「俺、たち、がたばで、かか、れば、例え騎士団、が相手、で、も、勝てる」

 喋る度に、口から血の塊が吹き出している。
致命傷を負った体は、もう長くないだろうと思った。
  _
(;;;゚∀ )「でも、あいつ、は、人間じゃ無かった」

( ;´_ゝ`)
  _
(;;;゚∀ )「も、も、も、もちろん、魔族、でも無い。俺、み、たいな、殺人、狂でも、無い。
     まる、で靴紐を、結ぶ、みたいに、人、を殺すん、だ。次元が違い、す、ぎ、る」


62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:22:56.23 ID:soTQRlyt0

( ;´_ゝ`)「誰に、やられた?」

 ジョルジュの残った片目から、光が失われていく。
  _
(;;;゚∀ )「『闇鴉』。俺、た、ち、の界隈、で、は、そう、呼ん、で、い、る」

 最後の言葉を言うと、ジョルジュは前のめりにばたりと倒れた。
彼の背中は、甲冑ごと肉をえぐられていた。

( ;´_ゝ`)「やみ、がらす」

 彼が最後に遺した言葉を復唱する。
初めて聞くその名は、凄惨な光景と共に心に深く刻まれた。

( ; _ゝ )「!」

 まただ、また暗闇が襲ってきた。
たき火の音が聞こえるのに、まるで目隠しをされたように何も見えない。
先程とは違い、体が一切動かなくなった。

 恐怖で気が狂いそうになる中、首筋で何かを感じた。これは、呼吸?
生臭い息がうなじに吹きかかる。殺気とは全く別物の、歪んだ気配が体を支配した。

 気配は背中から正面に回った。
全てを飲み込む、夜の闇よりも濃い暗闇の中、一つの点が浮かび上がった。
こちらを睨みつける目玉だった。

 ゚  「オマエ、誰ダ」


63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:25:08.37 ID:soTQRlyt0

 男とも女ともつかない、かすれた声が聞こえる。
暗闇の空間に貼り付けられた目玉は、こちらを見つめたまま動かない。
手足の感覚が無くなり、自分の存在すら曖昧になっていく。
俺の意識はどこまでも暗い闇に呑まれていった。


*―――*


 目を覚ましたのは、既に夜が明けた後だった。
周り中に転がっていたはずの死体は、何故か全て消失していた。
血の跡すら、見つけられなかった。

 全て夢だったら良かったのだが、思い通りにはいかない。
微かに鼻をくすぐる人間の血の臭いが、夢にさせてくれなかった。


*―――*


 村に戻ると、クーに抱きつかれ、泣かれ、殴られ、引っ掻かれた。
村人たちからは何か食べた方がいいと勧められたが、食欲が無かったので、旅館の布団に飛び込むように眠った。

 俺が起きたのは次の日の朝だった。
寝ぼけた頭で朝食を取ってから、村長にジョルジュたちはもういないと話した。
闇鴉の事は、隠したままだった。


64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:27:32.00 ID:Ox7UMKcZ0
支援

65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:29:13.65 ID:soTQRlyt0

 俺はあまりにも無知過ぎた。
世界はとてつもなく広く、まだまだ知らない事だらけだというのはわかっているつもりだった。
ただ闇鴉のような自分の認識を遙かに超えた存在がいるなんて、考えもしなかった。

 この先旅を続けるなら、必ず奴ともう一度会う。
縁起でもない予感が、俺の心を不安にさせた。

川 ゚ -゚) <大丈夫?>

▼・ェ・▼「ワン!」

 シェルジアを発ってから半日、ずっと暗い顔でいる俺をクーたちが心配そうにのぞき込んできた。
今は何も考えないようにしよう。助かった事に変わりは無いんだから。

 もう一度、彼女たちと旅が出来るんだ。戦う理由なんて、今から見つければいい。
死に急ぐ必要は無いんだ。

( ´_ゝ`)「クー。蘭子。好きだ」

川*゚ -゚)

▼*・ェ・▼

 痛い痛い痛い。照れ隠しならもっと優しくしてくれ。
顔を叩くな。引っ掻くないててて。足首を噛むなって。おい、やめろ。
ははは、生きてるって素晴らしいね。

 無知故の幸せ、もう少しだけ、噛みしめて生きよう。
いつの日かやってくるかもしれない、辛い別れに悔いを残さないように。

66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:30:02.07 ID:soTQRlyt0


#クロウ

終わり



67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:31:16.39 ID:soTQRlyt0
お疲れ様でした。質問とかあれば眠気に耐えられる限り答えます。たぶんすぐ寝ます。
無ければこのままおやすみなさい。

68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:35:03.71 ID:JNjp8Vbo0

超期待

69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:35:28.94 ID:hJkwMRN10
乙鰈!

70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:35:39.33 ID:AUpQvLlEO
乙。
匿名サンクチュアリの元はここだよなw

71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:36:49.48 ID:UBNEhUD4O
乙!次もwktkしてる

72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:37:44.16 ID:Ox7UMKcZ0
兄者かっこいいな乙

73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:40:21.23 ID:QjhNnpHwO
クロウの元ネタは姉s
違うか



74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:40:33.15 ID:b5bazY/ZO
前スレ落ちてから毎日パラドックスで検索してたくらい待ってたよ。
次回の投稿はいつくらいになるん?
PC規制中なので携帯から失礼。

75 :猿め…:2008/10/02(木) 00:48:13.80 ID:hmLGCSlBO
>>73ひょっとして何かと設定被ってますか?あちゃーしょんぼり
>>74頑張って今月中にと思っていますが、正直に言うとわかりませんでも頑張ります。投下の時間帯は今くらいになります

76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:48:37.56 ID:MN1F4hCXO
おつー

77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:52:02.91 ID:QjhNnpHwO
あ、いえ、全然被ってないです
次回も待ってます

78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:52:51.04 ID:FoRP44AfO
乙 かなりやっつけで申し訳ないが
( ´_ゝ`) 川 ゚ -゚) ▼・ェ・▼ http://kjm.kir.jp/?p=197904

79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:53:49.03 ID:b5bazY/ZO
>>75>>1なの?

80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:57:55.93 ID:xKGmhjYEO
クーは見た目何歳くらいだっけ

81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 00:58:28.78 ID:soTQRlyt0
>>78
うわあ可愛いwwwwありがとうございます。
保存させて頂きました

>>79
最後の最後で投稿規制にかかったので、携帯でレスしました
酉がないと不便ですね…

82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 01:04:09.79 ID:b5bazY/ZO
>>78保存した。

>>81了解した。せっかくだし酉つけようぜ。

83 : ◆UhBgk6GRAs :2008/10/02(木) 01:09:59.35 ID:soTQRlyt0
>>80
兄者より一回り年下くらいの年齢と描写しています
でも正確な歳はこれからも描写しないつもりなので、自由な想像で全然構いませんよ

>>82
それではこれからはこの酉でいきたいと思います



限界です。おやすみなさい

84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 01:14:27.50 ID:b5bazY/ZO
乙!おやすみ

85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/02(木) 01:16:40.87 ID:goRz67OnO


53 KB
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

★スマホ版★ 掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50

read.cgi ver 05.04.02 2018/11/22 Walang Kapalit ★
FOX ★ DSO(Dynamic Shared Object)